2021年後半の自作キーボードの歩み

自作キーボードを始めてちょうど1年。 前回の報告より約7か月。 その遍歴を振り返ってみたいと思います。

はじめに

2020年12月3日の夜中に人生初の自作キーボードに組み立て始めました。 そのまま徹夜をしてちょうど1年前の今日12月4日に自分だけのErgoDashを手にしました。 (前回の記事参照)

怒涛の如くキーボードを組み立てたことを紹介した前回の報告記事から約7か月間、 私が何をやっていたのかダイジェストで振り返ってみます。 そして記事の終盤にはコミックマーケット99における頒布物の宣伝があります。

4月下旬~5月上旬

まず何と言ってもその後HHKBを置き換えて常用することになる YUIOP60HH4 が完成しました。

現場でYUIOP60HH4がHHKBを置き換える瞬間
現場でYUIOP60HH4がHHKBを置き換える瞬間

YUIOP60HH4 は、 自作キーボード活動を続けてる際に出会った Everglide Dark Jadeキースイッチに惚れ込み 「HHKBレイアウトでこのスイッチを使いたい!」との強い思いから生まれた、 HHKB互換レイアウトを持つ自設計・自作キーボードです。

YUIOP60HH としては図面を引いただけの過去2作、 基板を制作したもののデザインに問題があって組み立てなかった3作目、 それらに続いての4作目となります。

そうした労力の末に完成した YUIOP60HH4 (+Dark Jade)は期待以上の使い心地を発揮し、 今では自宅と会社と両方のHHKBをこれで置き換えてしまいました。 前回以下のようなことを言っていたこの私がです。 YUIOP60HH4 はある意味、私のend gameとなったキーボードです。

この記事は白いYUIOP63HHSで書きました。 しかし普段使いはHHKB Type-Sです。 こんなにたくさん作ったのになぁw

Dark Jadeすべてはこのキースイッチに出会ったせい
Dark Jadeすべてはこのキースイッチに出会ったせい

常用するYUIOP60HH4には基板とトッププレートの間に発泡素材を挟んでいます。 この空間を充填することでDark Jadeの大きくなりがちなタイプ音の反響を軽減させています。 この充填材の選択と加工方法についてはいろいろな試行錯誤をしています。 そもそもこういう発泡素材には独立気泡と連続気泡の違いがあることを学びました。 加工ではレザークラフト用のポンチに行き着きました。 最終的に自家使用している2台のYUIOP60HH4には連続気泡の5mmウレタンシートと10mmの低反発ウレタンシートをそれぞれに挟んでいます。 やはり10mmのほうが若干静音性が高いのですが、わずかな差ですので加工の手間や入手性を考慮すると5mmで良いかなという感じです。

型取りして線を引き、穴あけ加工を待つウレタンフォーム
型取りして線を引き、穴あけ加工を待つウレタンフォーム

また後にLaserBoostさんで真鍮のトッププレートを作って換装しています。

真鍮製のトッププレート
真鍮製のトッププレート

組み立て作業ライブがたくさん残っていますので、興味がある方はご視聴&いいね&チャンネル登録よろしくお願いします!

5月中旬

白い非人道的ハンダ付けが必要なPro Microと交換で Lekiponさん からいただいた Optima615の試作版 を組み立てました。

大量のRGB LEDが印象的なOptima615(試作版)
大量のRGB LEDが印象的なOptima615(試作版)

その際の記録として作業ライブのアーカイブと組み立てた感想を公開しています。 気になる方は是非それらも見てみてください。

次に組み立てたのがかぎざら屋さんMiniAxe LPです。

カラフルなキーキャップでかわいらしいMiniAxe LP
カラフルなキーキャップでかわいらしいMiniAxe LP

無性に自分以外が設計した基板でMCU(ATmega32u4)のハンダ付けをしたくなったために購入&組み立てました。 キーが少ない&MCU直接利用のためにキー毎のダイオードが要らないのがとても新鮮(楽)でした。

現在ではカラフルなキーキャップが乗っていますw

組み立て作業動画も残っていますので、興味がある方はご視聴&いいね&チャンネル登録よろしくお願いします!

5月下旬~6月上旬

自設計・自作キーボードYUIOP31RSを制作してました。

YUIOP31RS(右)とロータリースイッチを用いた前作YUIOP22RS(左)
YUIOP31RS(右)とロータリースイッチを用いた前作YUIOP22RS(左)

YUIOP31RSはロータリースイッチ(not エンコーダー)でレイヤーを切り替えることを想定した31キーの左手デバイスです。 このキーボードには自分にとって幾つかのチャレンジがありました。 まずケースにタカチのTW13-3-13を採用し、とてもそれっぽいできになっています。 このケース向けの基板のために外形データを起こしました。

TW13-3-13の図面に示された推奨基板形状をKiCadに再現した
TW13-3-13の図面に示された推奨基板形状をKiCadに再現した

ケースと基板との固定にはインサートナットを用いています。 これはただの穴をネジ穴に変えてくれる部品で…こんなものがあったんですね。 便利です。

インサートナットと使ってるところ
インサートナットと使ってるところ

またRGB LEDにWS2812C-2020を採用しています。 WS2812C-2020は小さいために取り扱いが難しいのですが、 フットプリントが小さくなるためレイアウトに余裕が生まれ、 またその小ささとフットプリント形状のおかげで、 もちろん適切な工具は要るのですが、 ハンダ付けの難度と手間が下がりました。

極小RGB LEDであるWS2812C-2020を装着してる
極小RGB LEDであるWS2812C-2020を装着してる

残念ながらトッププレートの設計に不備があったために追加で手加工が必要でしたが、 おおむねよくできたかなと考えています。 ただ汎用ケースを使うことを優先しレイアウトやマップやらを煮詰められていないため、 動きはするものの完成・常用には至っていません。

設計ミスにより加工が必要だったトッププレート
設計ミスにより加工が必要だったトッププレート

組み立て作業動画があるので興味がある方はご視聴&いいね&チャンネル登録よろしくお願いします!

6月中旬

電気屋ヨーキースさんによるKeyball46を組み立ててました。

Keyball46(右手ボール)の雄姿
Keyball46(右手ボール)の雄姿

このKeyball46はいろいろと凄くて、 まず何よりもトラックボールと光学センサを囲っている部品を射出成型で作ってるという、 自作キーボードとしては破格のイニシャルコストがかけられている事が挙げられます。 たぶん外車が買えるレベル。 そのネジのぶっ飛び方に惚れまして販売開始前の予告段階からとても気になっていました。

そんな中、 QMKファームウェアに関するちょっとしたアドバイスをきっかけにヨーキースさんと親交が持てまして、 試験販売版をご案内いただき購入・組み立てました。 その後なんだかんだで7月の遊舎工房での委託販売開始でも購入してしまい、最終的に2.5台分を組み立てました。

2台あるのでこんなKeyball46アートができる(自分で作っておいてこの顔にはちょっとイラッときた
2台あるのでこんなKeyball46アートができる(自分で作っておいてこの顔にはちょっとイラッときた

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このKeyball46はハードウェアの完成度はアホみたいに高いのですが、 実は当初はファームウェアの完成度があまりよろしくありませんでした。 せっかくのハードウェアがもったいない、 ということで差し出がましかったとは思いますが 私が徹底的にファームウェアの面倒をみました。 「委託販売(7月)が始まるまでに」という勝手な目標を立ててそれはもう怒涛の勢いで実装しまして、 自分で言うのもなんですが導入のしやすさトラックボールの動きの滑らかさカスタマイズのしやすさ、 かなり良いファームウェアになったと思います。

ただこの作業の過程でQMKとPro Microにはいくらかの限界を感じてしまいました。 結果QMKやPro Microを使ったキーボードに見切りをつけ、新たな道を模索し始めるきっかけになりました。

~6月下旬

前回βテスターとして組み立てたWillowPecoeが Ergotonic49として名称を改め正式販売を始めたので 買い求めて組み立てました。 ドキュメントから始まりいろんな面の完成度が高く、 またコンパクトなWillow配列が魅力なキーボードでした。

集中ダイオードがとても作りやすいErgotonic49
集中ダイオードがとても作りやすいErgotonic49

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キートップに印刷した紙を挟める特殊なキーキャップを大量に入手する目的で PKB-111Uという市販キーボードを購入し分解しました。

分解されるために買われたPKB-111U君
分解されるために買われたPKB-111U君

PKB-111UはPOS用途の特殊キーボードで1つ1つのキー表示をカスタマイズできる特殊なキーキャップを大量に装着しています。 このキーキャップがあれば左手デバイスであるYUIOP31RSの仕上げに便利なのではと考え買い求めました。

PKB-111Uの特殊なキーキャップ
PKB-111Uの特殊なキーキャップ

いつも組み立てていますから、たまには分解するだけというのも面白いものです。 キーキャップだけでなく意図せず大量のCherry MX黒軸キースイッチや大型の金属トッププレートも手に入り、大変お買い得でした。

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7月

このあたりから若干速度が落ちます。 主要因はやはりQMKとPro Microに感じた限界でしょう。 限界を感じたとはいえ当時はまだ代替手段を思いついて… はいたもののそうする決心はできておらず、 そんなジレンマのなかでやる気が削がれたというところでしょうか。

ただそんな中でもKeyball46に感じた親指のポインティングデバイスの有用性から 自分でもアナログスティックを使ったポインティングデバイスをブレッドボードで試作したりしてます。

アナログスティックを使ったポインティングデバイスのPoC
アナログスティックを使ったポインティングデバイスのPoC

8月~9月中旬

本格的にアウトプットがありません。 8月に2回目のワクチンを接種しその副反応が重めに出たということも要因かもしれません。

進捗が無いのでかわいいGopher君キーキャップを貼っときます
進捗が無いのでかわいいGopher君キーキャップを貼っときます

9月下旬~10月

PGA2040が秋月電子さんで取り扱い開始されたことで創作(?)意欲が刺激されました。

取り扱い開始を知って早速買ってきて60%キーボードの最下段にフィットすることを確認した
取り扱い開始を知って早速買ってきて60%キーボードの最下段にフィットすることを確認した

PGA2040はRaspberryPi Picoに使われるRP2040を21mm四方という小さい基板に詰め込んだマイコンボードです。 コレを使えばPro Microの厳しいファームウェアサイズ制限から解放され、 なおかつ物理サイズ的にも余裕が生まれPCBとトッププレートの間に設置できる目途が立ったことで、 やる気が生まれました。

そうして設計したのがYUIOP60Piです。

仮組したYUIOP60Pi: 各部の寸法はバッチリ決まった
仮組したYUIOP60Pi: 各部の寸法はバッチリ決まった

YUIOP60PiはコントローラーにPGA2040を採用した準HHKB互換レイアウトの60キーキーボードです。 「準HHKB互換」とはスペースバーのキーキャップを入手容易にするために6.25uに変更し、 それに合わせて左隣を1.5uから1.25uに縮めました。 またYUIOP31RSで採用したWS2812C-2020を56個搭載しています。

国内で入手容易なキーキャップがバッチリとハマって光る準HKKB互換レイアウト
国内で入手容易なキーキャップがバッチリとハマって光る準HKKB互換レイアウト

組み立て作業動画がたくさんあるので興味がある方はご視聴&いいね&チャンネル登録よろしくお願いします!

YUIOP60Piではハードウェア的に脱Pro Microしただけでなく、 同時にファームウェアとして脱QMKもしています。 もともと自作キーボードにハマり始めた時に 「いずれファームウェアもフルスクラッチするんだろうな」 と考えたことがわずか1年で実現しました。

ファームウェアのソースコードはkoron/yuiop60piで見れます。 まだいろいろ作りかけですがキーボードとしての基本機能、 HHKB同等のキーマップ、 RGB LEDのドライバー、 VIA(Remap)に接続するためのドライバーはできています。 QMKより機能は遥かに劣りますがコンパクトなため全体を読むことも容易で、 これをベースに(コピーして)RP2040を使った別のキーボードのファームウェアが簡単に作れるかと思います。

11月~

YUIOP60Piの完成度を高めていきました。 幾つかの不具合を認めたため、2度の改訂を行い現在はRevision 3の基板が手元にあります。

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また年末に開催されるコミックマーケット99にてYUIOP60Pi rev.3の基板セット および部品セットを少数ながら頒布すべく準備を進めています。 YUIOP60Piのほかにも過去に制作して余った基板、作ったけどばらした(ダイオード等実装済み)基板なども少量頒布する予定です。 分割HHKBレイアウトのYUIOP60HHSの頒布もあります。 出展は2021年12月31日 金曜日 東地区”ト”ブロック 26b でサークル名は「ququ.(キュキュット)」です。

C99で頒布予定の部品セット(予定)の内容物
C99で頒布予定の部品セット(予定)の内容物
C99に向け最終組み立てテストで全灯点灯したYUIOP60Pi rev.3
C99に向け最終組み立てテストで全灯点灯したYUIOP60Pi rev.3

おわりに

前回と今回2つの記事でこの1年の自作キーボード活動を振り返ってみました。

真鍮トッププレートにDROP gmk white-on-blackキーキャップで最終形態になったYUIOP60HH4
真鍮トッププレートにDROP gmk white-on-blackキーキャップで最終形態になったYUIOP60HH4

自分のことながら自作キーボード沼へのあまりの急速潜航っぷりに若干ひきますね。

当初よりもかなり落ち着いてきたものの、 まだまだやってみたいネタはありますので来年もしばらくこの趣味は続きそうです。

今後やってみたいネタとしては次のようなものがあります。

  • 独自レイアウトの分割キーボード
  • I/Oエキスパンダ MCP23017 を使ったキーボード
  • Tiny 2040を使う
  • 親指で操作するポインティングデバイス
  • ロータリースイッチを用いた左手デバイスの完成
  • YUIOP60HHの改訂: 将来メンテ、再生産しやすいように
RaspberryPi PicoとI/Oエキスパンダを使ったキーボードのPoCモデル
RaspberryPi PicoとI/Oエキスパンダを使ったキーボードのPoCモデル

また進展がありましたら記事にいたします。


この記事はYUIOP60HH4 (Dark Jade)で書きました。 というか最近はコレじゃないとまともにタイプできません。